高松高等裁判所 昭和43年(く)20号 決定 1968年12月10日
少年 H・J(昭二四・一・四生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、記録に編綴の附添人木原主計作成名義の抗告理由書記載のとおりであるから、ここにそれを引用する。
抗告趣意第一点
所論は、要するに、本件保護事件につき昭和四三年八月一九日松山家庭裁判所において行なわれた審判期日には、前記少年の保護者である父H・K、母H・M子が出席し、両名は裁判官の質問に対し陳述したのに、本件審判調書には右陳述について何らの記載がなされていないから、右調書は少年審判規則三三条に違反し違法なものであるというのである。
そこで原審の審判調書を検討すると、前記少年の父母が前記審判期日に保護者として出席したことが認められるが、右審判調書には、保護者の陳述が何ら記載されていないことは所論のとおりである。ところで、審判期日において保護者の陳述がなされた場合には、その要旨を記載することを要し(少年審判規則三三条二項四号)、抗告があつた場合には裁判官の許可によるその記載の省略は許されないのであるから(同三三条三項但書)、前記陳述の記載のない調書は、右規則に違反するものといわなければならないことは所論のとおりであるけれども、本件記録及び少年調査記録によつて認められる本件についての調査経過、内容、ことに昭和四三年八月五日には家庭裁判所調査官が少年の母に面接、調査しており、その結果は、原審裁判官宛に提出された少年調査票に記載されていることがうかがわれること及び原審における審判経過を参酌すると、原審の審判手続に前記規則違反の事実があつたとしても、この点のみでは本決定に影響を及ぼすものとは到底解しえないから、本論旨は理由がない。
抗告趣意第二点
所論は、要するに、原審は本件非行事実の第一として刑法一五五条一項所定の公文書偽造の事実を認定したが、少年は友人○下○一の自動車免許証に添付の同人の写真を取り剥し、その跡に少年の写真を貼り付けたにすぎないから、右所為は刑法一五五条二項所定の公文書変造罪に該当するものであるというのである。
しかしながら本件記録を精査すると、少年は右○下名義の自動車運転免許証に貼付してあつた同人の写真を取り剥し、少年自身の写真を貼り付けたが、右免許証の記載事項には何ら変更を加えていないことが認められるけれども、右写真の貼り代えは、右公文書の性質上その重要部分の変更にあたるものといわなければならないから、右所為が有印公文書偽造罪に該当するものとした原審の判断は相当である。本論旨も理由がない。
抗告趣意第三点
所論は、要するに、原処分の著しい不当をいうのであるが、本件記録及び少年調査記録を精査して検討するに、本件各非行の罪質、態様、本件各非行に至るまでの経過及び生活態度、ことに少年は、昭和四三年五月一五日前件傷害事件により保護観察決定を受けながら家出し、定職に就かず不良集団に加わり徒食するうち、右決定後二ヶ月余りしか経過しないうちに同種の粗暴行為を含む本件非行を敢行していること、その資質についても限界級の低知で、自主的判断力に乏しく、衝動的に行動する傾向があるなどの問題点があり、その生活状況からみても保護者の少年に対する指導力は不十分なものとなつていることがうかがわれること等の諸点を考慮すると、少年の非行親和的傾向を矯正し、健全な社会適応性を育成するためには、少年院における矯正教育を受けさせる必要があるものと思料されるから、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は相当であつて、決して重きに失するものとは認められないから、本論旨も理由がない。
よつて、本件抗告は理由がないので少年法三三条一項により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 呉屋愛永 裁判官 谷本益繁 裁判官 大石貢二)
参考
抗告理由
一、第一点。審判調書について。
同日に行はれた審判廷には保護者たる父H・K、母H・M子が出席しているに拘らず、審判調書には少年審判規則第三三条第二項四により保護者の陳述の要旨を記載せられていない。附添人木原主計に対し右両親は裁判官の質問につき陳述した旨述べている。然るに保護者の陳述を記載せられていない。果して然らば本件審判が公正に行はれたか、どうか不明である。
保護者の陳述を記載せられていない本審判調書は前条項に違反していると云うべきである。
二、第二点。公文書偽造について。
本件決定の事実によれば少年の友人○下○一の自動車免許証に添付の同人の写真を取剥し、その跡に少年の写真を貼り付けたものである。これに対し原決定は公文書偽造(刑法第一五五条第一項)と認定しているが、右写真の貼りかえの所為は公文書変造(同条第二項)に該当するものと思料する。然し、偽造と変造とは刑の量定には重大なる差異がある。この点に於て原決定は事実を誤認している。
三、第三点。少年の家庭について。
少年が再度に亘り松山家庭裁判所に於て保護処分にされているが、これは少年の両親が少年を手元に置き監督をしていないことに原因がある。本決定を機会として少年の両親、兄H・S等は痛く反省し、少年を十分に監督し、将来非行をさせないことを誓つている。少年を少年院に収容するよりも少年の両親、兄に引渡して更正の機を与えていただき度い、もう一度保護観察処分をしていただき度く懇願します。
以上の諸点により原決定を取消し、本事件を原裁判所に差し戻していただき度く上申します。